はじめに
この記事では、DX人材育成の進め方や成功事例について詳しく解説します。
DX人材とは
DX人材とは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進・実行していく人材のことです。経済産業省の定義によると、DX人材は「自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材」とされています。
デジタルスキル標準の概要
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、DX人材の育成・確保を支援するために「デジタルスキル標準」を策定しました。これは以下の2つの要素で構成されています。
- DXリテラシー標準(DSS-L):全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準
- DX推進スキル標準(DSS-P):DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルの標準
DXリテラシー標準(DSS-L)
DXリテラシー標準は、業界・業種を問わず全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルを定義しています。これには次のような要素が含まれます。
- デジタル技術の基礎知識
- データ活用の基本概念
- セキュリティとコンプライアンスの理解
- デジタルビジネスモデルの理解
DX推進スキル標準(DSS-P)
DX推進スキル標準は、DXを推進する専門人材に求められる役割や習得すべきスキルを定義しています。主な人材類型として以下が挙げられています。
1. ビジネスアーキテクト
ロール
- 新規事業開発
- 既存事業の高度化
- 社内業務の高度化・効率化
主な役割:DXの目的設定、関係者のコーディネート、プロセスの一貫した推進
必要なスキル:ビジネス戦略立案、プロジェクトマネジメント、デジタル技術の理解
- デザイナー
ロール
- サービスデザイナー
- UX/UIデザイナー
主な役割:ユーザー中心のサービス設計、使いやすいインターフェースの設計
必要なスキル:ユーザーリサーチ、プロトタイピング、ビジュアルデザイン
- データサイエンティスト
ロール
- データビジネスストラテジスト
- データサイエンスプロフェッショナル
- データエンジニア
主な役割:データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現
必要なスキル:統計解析、機械学習、データ可視化、ビッグデータ処理
- ソフトウェアエンジニア
ロール
- ソフトウェアアーキテクト
- アプリケーションエンジニア
- インフラエンジニア
主な役割:DXを支えるシステムの設計・開発・運用
必要なスキル:プログラミング、システム設計、クラウド技術、DevOps
- サイバーセキュリティ
ロール
- セキュリティアーキテクト
- セキュリティオペレーター
主な役割:DXにおけるセキュリティリスクの管理と対策
必要なスキル:リスク分析、セキュリティ設計、インシデント対応
これらの人材類型とロールに対して、合計49個のスキル項目が定義されており、各ロールに対してそれぞれのスキル項目の重要度が4段階で示されています。
出典:https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/index.html
DX人材育成の効率的な進め方
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためには、適切な人材の育成が不可欠です。
ここでは、DX人材育成を効果的にすすめるためのステップを紹介します。
1. 目的と必要なスキルの明確化
DX人材育成の第一歩は、明確な目的設定と必要なスキルの特定です。
経営戦略との連動
- 企業のビジョンや中長期計画を踏まえたDX戦略を策定します。
- DX推進によって達成したい具体的な目標を設定します。(例:業務効率化、新規事業創出など)
スキルギャップの分析
- 現在の従業員のスキルレベルを評価します。
- 将来必要となるスキルを予測し、現状とのギャップを特定します。
- デジタルスキル、ビジネススキル、マインドセットの3つの観点から分析します。
重点育成分野(デジタルスキル標準)の特定
- デジタル技術(AI、IoT、クラウドなど)
- データ分析・活用スキル
- プロジェクトマネジメント
- デザイン思考
- アジャイル開発手法
2. 育成対象者の選定
適切な人材を選定することで、効果的な育成が可能になります。
スキルアセスメントの実施
- デジタルリテラシーテストを実施します。
- 問題解決能力や創造性を評価するケーススタディを実施します。
- 360度評価による多角的な能力評価を行います。
DX適性の評価
例えば、以下の3点のような項目を評価します。
- 学習意欲や変革への意欲
- デジタル技術への興味・関心
- 論理的思考力やコミュニケーション能力
多様性の確保
- 異なる部門から人材を選出をします。
- 年齢や経験の多様性を考慮します。
- ジェンダーバランスを確保します。
3. 教育プログラムの設計
効果的な学習を促進するためのプログラム設計が重要です。
学習方法の選択
- eラーニング:基礎知識の習得に活用します。
- 集合研修:グループワークやディスカッションを通じた学習をします。
- OJT:実際の業務を通じたスキル習得を行います。
段階的カリキュラムの作成
- 基礎レベル:DXの概念理解、デジタルリテラシー
- 中級レベル:特定のデジタル技術やツールの活用スキル
- 上級レベル:DXプロジェクトのリーダーシップ、戦略立案
実践的な課題設定
- 実際の業務課題をベースにしたケーススタディを行います。
- ハッカソンやアイデアソンを実施します。
- 模擬プロジェクトを立案・実施します。
4. 学習環境の整備
効果的な学習を支援する環境づくりが重要です。
学習時間の確保
- 業務時間内での学習時間設定を行います。
- 集中学習時間を設定します(例:週1日は学習デー)。
オンラインプラットフォームの導入
- LMS(学習管理システム)を導入します。
- オンデマンド動画学習の環境を整備します。
- バーチャルクラスルームを活用します。
進捗管理システムの構築
- 個人ごとの学習進捗をダッシュボード化します。
- 上司や人事部門による定期的なフォローアップ面談を行います。
- 実践の機会提供
学んだスキルを実際に活用する機会を設けることが重要です。
小規模のプロジェクト実施
例
- 部門内の業務改善プロジェクト
- 新しいデジタルツールの導入プロジェクト
段階的な規模拡大
- 部門横断プロジェクトに参加します。
- 全社的なDX推進プロジェクトへの参画を行います。
サポート体制の整備
- 経験豊富な社内メンターを配置します。
- 外部コーチによるコーチングを実施します。
- ピアサポートグループを形成します
- 効果測定と改善
継続的な改善のためのPDCAサイクルを回すこちが重要です。
スキル習得状況の評価
- 定期的なスキルチェックを実施します。
- プロジェクト成果物の評価を行います。
- 360度評価による成長度合いを確認します。
業務パフォーマンスの測定
- KPI(重要業績評価指標)の設定と測定を行います。
- 生産性や効率性の変化を追跡します。
- 顧客満足度や従業員満足度の変化の測定を行います。
プログラムの継続的改善
- 参加者からのフィードバックを収集します。
- 最新のデジタル技術トレンドを反映させます。
- 外部ベンチマークとの比較による改善点の特定を行います。
成功事例
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において、人材育成は極めて重要な要素です。ここでは、エネオスホールディングスと日本郵船のDX人材育成の成功事例を詳しく紹介します。
エネオスホールディングス株式会社
エネオスホールディングスは、DX推進に積極的に取り組み、その成果が認められDX銘柄2022に選定されました。同社のDX人材育成の特徴と具体的な取り組みを見ていきます。
DX人材育成の特徴
エネオスでは、デジタル人材が持つべき4つのスキル「ABCD」を定義し、それに基づいた研修プログラムを実施しています。
- A: AI Analytics(AI分析)
- B: Business Intelligence(ビジネスインテリジェンス)
- C: Cyber Security(サイバーセキュリティ)
- D: Design Thinking(デザイン思考)
この「ABCD」フレームワークは、デジタル時代に必要とされる幅広いスキルセットを網羅しており、体系的な人材育成を可能にしています。
具体的な取り組み
- 段階的な研修プログラム
- 「基礎」と「専門」の2レベルで研修を実施
- 2021年度には1000名以上の従業員が「基礎」研修を受講
この段階的アプローチにより、全社的なデジタルリテラシーの底上げと、専門人材の育成を同時に進めています。
2. 高度な資格取得支援
- 「専門」レベルでは、AI・アナリティクスに関する高度な資格取得を推奨
- 2021年度には32名が高度な資格を取得
専門性の高い資格取得を支援することで、社内のDX推進リーダーを育成しています。
3. 実践的なDXプロジェクト
- AIを利用した石油精製・石油化学プラント自動運転の実施
- 原子レベルでのシミュレーター開発
実際のビジネスプロセスにDX技術を適用することで、座学だけでなく実践的なスキル習得を促進しています。
成果
- デジタルスキルを持つ従業員が増加しました。
- 実際のビジネスプロセスへのDX技術の適用に成功しました。
- イノベーション創出の基盤構築に成功しました。
エネオスの取り組みは、全社的なデジタルリテラシー向上と専門人材育成の両立、そして実践的なプロジェクトを通じた学習機会の提供という点で特筆すべきです。
出典:https://www.hd.eneos.co.jp/esgdb/social/development.html
日本郵船株式会社
日本郵船は、海運業界におけるDX推進のリーダーとして知られており、特にデジタル人材の育成に注力しています。
DX人材育成の特徴
日本郵船では、「NYKデジタルアカデミー」を創設し、海運と陸運のシームレス化を目指す人材を育成しています。この取り組みは、業界特有のニーズに応じたカスタマイズされた人材育成プログラムとして注目されています。
具体的な取り組み
- NYKデジタルアカデミーの設立
- 社内外の専門家による講義
- 実践的なプロジェクト型学習
業界の最新動向や技術トレンドを学ぶとともに、実際のビジネス課題に取り組むことで、実践的なスキルを養成しています。
2. 多層的な人材育成プログラム
- 全社員向けのデジタルリテラシー教育
- 中堅社員向けの専門的なデジタルスキル研修
- 経営層向けのDX戦略立案研修
各層に適したプログラムを提供することで、組織全体のDX推進力を高めています。
3. 外部機関との連携
- 大学や研究機関との共同研究プロジェクト
- スタートアップ企業とのオープンイノベーション
外部の知見を積極的に取り入れることで、最新のテクノロジーやイノベーションの動向をキャッチアップしています。
4. グローバル人材の育成
- 海外拠点との人材交流
- 国際的なDXプロジェクトへの参加機会提供
グローバルな視点を持つ人材を育成することで、国際競争力の強化を図っています。
成果
- デジタル技術を活用した新サービスの開発に成功しました。
- 業務効率化によるコスト削減が実現しました。
- 海運・物流業界におけるDXリーダーシップが確立されました。
日本郵船の取り組みは、業界特化型の人材育成プログラム、多層的なアプローチ、外部機関との連携、そしてグローバル視点の育成という点で優れています。
出典:https://www.nyk.com/news/2024/20240528_01.html
ツールの活用
DX人材育成に必要なデータの収集・更新、そして集まったデータを分析するためには、ツールの活用が不可欠です。
Tasonalは、タスク管理機能や1on1管理機能、目標管理機能から人材データ(スキル・エンゲージメント・志向性など)を収集/可視化し、それらのデータを基にした人材管理や業務の改善を支援します。
人材データの収集や更新は現場の協力が不可欠です。DX人材育成が形骸化しないためにも、現場負荷を下げるこのようなツールを検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
エネオスホールディングスと日本郵船の事例から、効果的なDX人材育成には以下の要素が重要であることがわかります。
- 明確なスキル定義と段階的な育成プログラム
- 実践的なプロジェクトを通じた学習機会の提供
- 全社的なデジタルリテラシー向上と専門人材の育成の両立
- 外部機関との連携によるイノベーション促進
- グローバルな視点を持つ人材の育成
効果的なDX人材育成のためには、Tasonalのようなツールを導入しましょう。業務管理ツールからデータを収集することで、少ない現場負荷でリスキリングの導入を可能にします。
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