人的資本経営の事例集
花王、キリン、オムロン、KDDI、日立製作所といった企業は、人的資本経営を重要な経営戦略として位置づけ、様々な取り組みを行っています。ここでは、花王、キリン、オムロン、KDDI、日立製作所の5つの企業の事例を、背景、取り組み、結果の観点に触れつつご紹介します。
花王
背景
花王は、中期経営計画「K27」のビジョンである「未来のいのちを守る」の実現に向けて、人財を最大の資産と位置づけています。グローバル化や産業構造の変化に伴い、従来の人材管理手法では対応が難しくなってきたことから、新たな人財戦略の必要性を認識しました。
取り組み
- 人財開発基本方針の策定
花王は「平等から公平へ」「相対から絶対へ」「画一・形式から多様・自律へ」という人財開発基本方針を掲げました。 - メリハリある人的資本投資
意欲ある人財への投資を拡大し、「グローバル・シャープトップ」な人財/組織運営を進めています。 - 公平な機会提供と意欲ある人財の育成
社員自身のキャリアプランと会社の方針に合わせた最適配置を行い、DX教育を含むリスキリングやスキルアップの機会を拡大しています。 - 脱マトリックス型組織運営
迅速な意思決定ができる人財を重要なタスクに集め、スクラム型のアプローチを強化しています。 - 挑戦・成果重視の環境創り
透明性のある評価を行い、高い挑戦をして成果を出した社員により報いる処遇を実施しています。 - OKRの導入
2021年に「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」としてOKR(Objectives & Key Results)を導入しました。
効果
- 社員活力の最大化
これらの取り組みにより、社員の活力を最大化し、「よきモノづくり」の変革を進めています。 - 企業価値の向上
人的資本経営の実践により、花王は「人的資本経営が進んでいる日本企業」ランキングで1位に選ばれるなど、その取り組みが高く評価されています。 - ESG評価の向上
2021年に2年連続でCDPの「トリプルA」(気候変動、水セキュリティ、森林の3分野で最高評価)を獲得しています。 - 挑戦する文化の醸成
OKRの導入や「花王ウェイ」の改定により、社員が自ら掲げる大きな目標に「果敢に挑む」文化が育まれています。
花王の事例は、人的資本経営が単なる人事施策にとどまらず、経営戦略と密接に連動し、企業価値の向上につながることを示しています。
出典:https://www.kao.com/jp/sustainability/walking-the-right-path/human-capital/
キリン
背景
キリングループは、酒類・清涼飲料から医薬品、さらにはヘルスサイエンス領域へと事業を拡大する中で、多様な人材の育成と活用が重要課題となりました。「人間性の尊重」を人事の基本理念に掲げ、従業員と会社を「イコール・パートナー」と位置づけ、人的資本経営を推進しています。
取り組み
- 人財戦略の基本理念
「人間性の尊重」を掲げ、従業員一人一人が新たな価値創造に挑戦し、成長し続ける環境を提供しています。 - 専門性と多様性の両立
食からヘルスサイエンス・医領域にわたるユニークな事業ポートフォリオを活かし、従業員の専門性向上と多様な事業経験の獲得を促進しています。 - 機能軸のタレントマネジメント
事業を強化するため、機能ごとの専門性を高めるキャリア展開を推進しています。同時に、機能を横断した越境経験やグローバル経験も提供しています。 - 人財マネジメントの再構築
従業員の自律的キャリア形成支援やタレントマネジメントシステムの導入など、複数のプロジェクトを進めています。 - きめ細かな人財情報収集
人事部門が定期的に現場に出向き、従業員一人一人の人財情報をアップデートしています。
効果
- 組織能力の強化
事業ポートフォリオ転換に伴う組織能力の強化が進んでいます。 - 挑戦する風土の醸成
従業員が新たな価値創造に向けて挑戦し、活き活きと働く環境が整備されつつあります。 - 戦略実行力の向上
専門性と多様性を兼ね備えた人財の育成により、高度な戦略を実現する実行力が向上しています。 - 働きがいの創出
労働市場や個人の価値観の変化に対応した、働きがいのある職場環境が形成されています。 - ステークホルダーとの対話促進
人的資本への注目を契機に、ステークホルダーとの対話が進み、戦略の進化につながっています。
キリングループの事例は、事業の多様化に対応した人的資本経営の重要性を示しています。
専門性と多様性のバランスを取りながら、従業員の成長と企業価値の向上を同時に実現する取り組みは、多くの企業にとって参考になるモデルです。
出典:https://www.kirinholdings.com/jp/drivers/hr/
オムロン
背景
オムロンは、企業理念の実践を通じて社会的課題を解決し、持続的な成長を目指しています。複雑化・広範化する社会課題に対応するため、多様な専門性を持つ人材がグローバルで連携して取り組む必要性を認識しました。
取り組み
- ダイバーシティ&インクルージョンの推進
多様な人材の育成と獲得に注力し、社員一人一人が自由に社会的課題の解決に挑戦できる環境や仕組みづくりに投資しています。 - グローバル人材戦略
次世代経営チーム育成のため、グローバル経営幹部の育成と配置に注力しています。
グローバル共通の異動ルールを導入し、公平公正な処遇を実現しました。
海外重要ポジションの現地化を推進しています。(2023年度実績81%) - 適所適財の人材配置
役割や職務の設定基準を明確化しています。
MBOによる適切な目標設定と評価・処遇を行っています。
高頻度の1on1による双方向の対話を設定しています。 - The Omron Global Awards(TOGA)の実施
2012年から実施されているイベントで、チームで企業理念実践の取り組みを宣言し実行しています。
企業理念の実践度合いを評価軸とし、全社で共有しています。 - 人的創造性指標の導入
社憲を人的資本経営に組み込んだ独自の指標を設定しました。
効果
- グローバル人材の活躍
海外重要ポジションの現地化比率が81%に達し、各地域の特性を活かした経営が実現しました。 - 従業員エンゲージメントの向上
適所適財の人材配置と双方向の対話により、モチベーションが向上しました。 - 企業理念の浸透
TOGAを通じて、国籍に関係なく全従業員が企業理念に共感し、実践する文化を醸成しました。 - イノベーションの促進
多様な人材が自由にちぃう戦できる環境により、社会的課題解決に向けたイノベーションが促進しました。 - 持続的な成長
人的資本経営の取り組みが評価され、企業価値の向上につながりました。
オムロンの事例は、企業理念を基盤とした人的資本経営が、グローバルな事業展開と社会的課題解決の両立に寄与することを示しています。
継続的な「トライ&ラーン」の姿勢で、常に進化を続ける人的資本経営の好例と言えます。
出典:https://sustainability.omron.com/jp/social/talent-attraction/
KDDI
背景
KDDIは、通信事業から様々な産業に事業領域を拡大する中で、多様な人材の確保と育成が課題となりました。2018年頃には、従来の年功序列型人事制度の限界を認識し、新たな人材戦略の必要性を感じていました。
取り組み
- ジョブ型人事制度の導入
2022年に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入し、職務領域を明確にしながら、成果・挑戦・能力に応じて評価する仕組みを構築しました。 - 「人財ファースト企業」への変革
2022年からの中期経営計画で「人財ファースト企業」への変革を打ち出し、人材を最も大切なリソースと位置付けました。 - DX基礎研修の実施
2024年までに全社員を対象としたDX基礎研修を実施し、事業変化に対応できる基礎スキルの習得を目指しています。 - 人材情報の開示
ポータブルスキル、離職率、採用費等の人材関連情報の開示を進めています。ISO30414のガイドラインを参考に、必要な情報の開示準備を進めています。 - サクセッションプランの検討
将来の経営者育成計画とその投資に関する情報開示を検討しています。 - 「KDDI新働き方宣言」の策定
2020年に策定し、社員一人一人が最大限の能力を発揮できる環境づくりを目指しています。
効果
- 人事変革の評価
2022年12月、「KDDI版ジョブ型人事制度」をはじめとする人財ファースト企業への取り組みが「HR Transformation of The Year 2022」の最優秀賞を受賞しました。 - 社員の意識改革
ジョブ型人事制度の導入以降、若手社員や40代・50代を含む全社員が、自身のキャリアに向き合い始めています。 - 人的資本経営の先進企業としての認知
経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」の検討委員会として参加し、実践事例集にも取り組みが紹介されるなど、人的資本経営の先進企業として認知されています。 - 人的資本コンソーシアムへの参加
2022年8月に「人的資本経営コンソーシアム」に入会し、先進事例の共有や効果的な情報開示の検討に参加しています。
KDDIの事例は、事業環境の変化に対応するため、従来の人事制度を大きく転換し、人的資本経営を積極的に推進している好例と言えます。
今後も継続的な取り組みと情報開示を通じて、企業価値の向上と社会の持続的な成長への貢献が期待されています。
出典:https://tobira.kddi.com/sustainability2023/vision/human_capital.html
日立製作所
背景
日立製作所は、グローバル市場での競争力強化と持続可能な社会の実現に向けて、人的資本を価値の源泉と位置付けています。多様な人財が国・地域・事業体を越えて一つのチームとして機能し、変化の激しい環境に迅速に適応できる組織づくりを目指しています。
取組み
- 経営戦略と連動した人財戦略
2024中期経営計画に基づき「2024人財戦略」を策定し、「People」「Mindset」「Organization」の3つの柱を設定しています。 - グローバルな人財育成
日立グループ教育体系を整備し
安全専門研修のグローバル展開を拡充しています。 - 従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントスコアをKPIとして設定し、目標達成に向けて取り組んでいます。 - ダイバーシティ&インクルージョンの推進
管理職の女性比率向上や男女の賃金差異の解消に取り組んでいます。 - 安全衛生管理の強化
グローバルKPI管理の確立や、AIを活用した災害データの分析・予兆診断を実施しています。 - 人的資本情報の戦略的開示
有価証券報告書において、人財戦略、人事施策、KPIをモデル図で整理し開示しています。
効果
- 人的資本経営の評価
「人的資本調査2023」において「人的資本リーダーズ」および「人的資本経営品質(ゴールド)」を受賞しました。 - グローバルな人財マネジメント
10年以上にわたる継続的な取り組みにより、グローバルでの人的資本経営の仕組み化を実現しています。 - 戦略的な情報開示
経営戦略と人財戦略の連動を明確かつ詳細に開示し、高い評価を得ています。 - 安全衛生の改善
2022年度の総災害発生数(TRIFR)は0.26となり、安全な職場環境の構築に向けて進展しています。 - 従業員エンゲージメントの向上
2024年度までに従業員エンゲージメントスコア67%の達成を目指し、取組みを進めています。
日立製作所の事例は、長期的かつ戦略的な人的資本経営の実践と、それに基づく情報開示の重要性を示しています。
経営戦略と人財戦略の緊密な連携、グローバルな視点での人財育成、そして継続的な取り組みが、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に繋がっていると言えるでしょう。
出典:https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/10/1012pre.pdf
ツールの活用
人的資本経営は人材データの収集・更新、そして集まったデータを分析が必要です。それにはツールの活用が不可欠です。
Tasonalは、タスク管理機能や1on1管理機能、目標管理機能から人材データ(スキル・エンゲージメント・志向性など)を収集/可視化し、それらのデータを基にした人材管理や業務の改善を支援します。
人材データの収集や更新は現場の協力が不可欠です。人的資本経営の導入が形骸化しないためにも、現場負荷を下げるこのようなツールを検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方です。
人的資本経営は、組織の成功にとって不可欠な要素となりつつあります。
また、データの収集や更新には、Tasonalのようなツールを導入しましょう。業務管理ツールからデータを収集することで、少ない現場負荷で人的資本経営の導入を可能にします。
ぜひお気軽にお問合せください。
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