はじめに
MBO(Management by Objectives)は、組織と個人の目標を連携させ、効果的な目標を達成するためのマネジメント手法です。この手法について本記事では詳しく解説していきたいと思います。
MBOの定義と基本概念
MBOは、1954年にピーター・ドラッガーが語る「現代の経営」で提唱した概念です。組織の目標を個人の従業員の具体的な目標に落とし込み、その達成度合いを評価する手法です。
MBOの基本的な特徴は以下の4つです。
組織目標と個人目標の連携
MBOでは、組織全体の目標を個人の従業員の具体的な目標に落とし込みます。
これにより
- 組織の方向性と個人の行動の一致
- 従業員の経営意識の向上
- 組織全体の目標達成に向けた効果的な取り組み
が期待できます。
例えば、会社の売り上げ目標を部門ごとの目標に分解し、さらに個人レベルの具体的な行動目標に盛り込むことで、全従業員が組織目標の達成に貢献できるようになります。
従業員の自主的な目標設定
MBOの特徴的な点は、従業員自身が目標を設定することです。
これにより
- 従業員の主体性と責任感の向上
- 個人の能力や状況に応じた適切な目標設定
- モチベーションの向上
が期待できます。
ただし、完全に従業員任せにするのではなく、上長との面談や、組織目標との整合性の確認を行い、必要に応じて調整を行いましょう。
定期的な進捗確認と評価
MBOでは、目標設定後も定期的な進捗確認と評価を行います。
例
- 目標達成に向けた継続的な取り組みの推進
- 問題点の早期発見と対策
- 目標の柔軟な修正や調整
進捗確認は通常、月次ごとに行われ、上司と部下のコミュニケーションの機会としても活用されます。
結果だけでなくプロセスも重視
MBOでは規定結果のみを評価するのではなく、目標達成に向けたプロセスも重視します。
これには
- 努力や工夫の適切な評価
- 長期的な能力開発と成長の促進
- 短期的な結果主義の弊害の回避
のような意味があります。
例えば、数値目標を達成できなくても、その過程で新しい手法を開発したり、チームワークを向上させたりした場合は、それらのプロセスも評価の対象になります。
MBOの実践プロセス
ここでは、MBOの実践プロセスについて解説していきたいと思います。このプロセスは、組織全体の目標と個人の目標の整合性を重視し、効果的な目標達成を実現するために設計されています。
- 組織目標の設定と共有
まず、経営層が組織全体の目標を設定します。
主に
- 経営ビジョンや中長期計画の策定
- 年度ごとの経営目標の設定
- 部門別の目標への申し込み
を行います。設定された目標は、全社員に明確に伝達され、共有されます。これにより、組織の方向性が常に理解され、個人目標設定の基盤となります。
-
個人目標の設定
次に、各従業員が自分の目標を設定します。
この段階では
組織目標を踏まえた個人レベルの目標設定
SMART原則に基づく具体的な目標の策定
主人公との事前相談やすり合わせ
を行います。従業員の自主性を尊重しつつ、組織目標との整合性を確保することが重要です。 -
上司によるチェックと調整
設定された個人目標は、上長によってチェックされ、必要に応じて調整されます。
- 組織目標との整合性の確認
- 目標の難しさと達成可能性の検討
- 後輩の成長を踏まえた目標設定のアドバイス
が行われます。上司と部下の対話が大切で、より正しい目標設定が実現されます。
-
目標達成に向けた計画策定
目標が確定したら、その達成に向けた具体的な計画を立てます。
目標達成のためのアクションプランの作成
必要なリソースの特定と確保
マイルストーンの設定
等が行われます。計画は具体的かつ実行可能なものである必要があります。 -
計画の実行
考えられた計画に基づいて、実際の業務が遂行されます。
日々の業務における目標の維持
計画に沿った行動の実践
必要に応じた柔軟な対応
従業員は自分の目標を常に意識しながら業務に取り組みます。 -
定期的な進捗確認と調整
目標達成に向けた進捗は、定期的に確認されます。通常、
- 月次や議事ごとの進捗レビュー
- 上司と部下の面談による状況確認
- 必要に応じた目標や計画の修正
この段階で、環境変化や予期せぬ障害に対応し、目標や計画を柔軟に調整することが可能です。
- 評価とフィードバック
最後に、設定期間終了時に目標の達成度を評価し、フィードバックを行います。
- 目標達成度の客観的な評価
- 結果だけでなくプロセスも含めた総合的な評価
- 建設的なフィードバックの提供
- 次期の目標設定への反省
正しい評価とフィードバックは、従業員の成長と次期の目標設定の改善につながります。
MBOの目標設定
MBOの成功には、適切な目標設定が重要です。多くの組織が採用しているSMART原則は、効果的な目標設定のための考え方として広く認知されています。ここでは、SMART原則について詳細に解説していきたいと思います。
SMART POLICYの詳細
SMART原則は5つの要素から構成されています。
1.Specific(具体性)
目標は具体的かつ明確であることが必要です。抽象的な表現を避け、誰が見ても理解できる明確な言葉で表現することが重要です。
例
△「売り上げを増やす」
〇「新規顧客を20社獲得し、四半期の売り上げを15%増加させる」
具体的な目標設定により、従業員は何をすべきかを明確に把握し、考えた行動ができます。
2.Measurable(計量性)
目標の達成度を客観的に測定できることが重要です。数値化できる指標を置くことで、進捗状況や最終的な達成度を明確に評価できます。
例
△「顧客満足度を向上させる」
〇「顧客満足度調査のスコアを7.5から8.5に向上させる」
測定可能な目標は、進捗の暫定化と客観的な評価を可能にし、従業員のモチベーション維持にも役立ちます。
3.Achievable(達成可能性)
目標は挑戦的でありながらも、現実的に達成可能なものが好ましいです。
例
現在のシェアが5%の場合
△「市場シェアを一年で50%に拡大する」
〇「市場シェアを1年で8%に拡大する」
適切な難易度の目標設定は、従業員の成長を促進し、達成感を得られる機会を提供します。
4.Relevant(関連性)
設定される目標は、組織の全体的な目標や戦略と関連性を持つ必要があります。個人の目標が組織の方向性と一致することで、効果的な目標達成が可能になります。
例
△「個人的な趣味のスキルを向上させる」(組織の目標と無関係の場合)
〇「部門の生産性を10%向上させ、全体の効率化目標に貢献する
関連性のある目標設定のより、従業員は自分の役割の重要性を理解し、組織への貢献を認識できます。
5.Time-related(期限)
目標には明確な期限を設定することが重要です。期限があることで、計画的な取り組みと進捗管理が可能になります。
例
△「新製品を開発する」
〇「6カ月以内に新製品のプロトタイプを完成させる」
期限付きの目標設定は、従業員に適度な緊張感を与え、効率的に業務を遂行させます。
MBOのメリット
MBOを正しく導入することで、組織には様々なメリットがもたらされます。ここでは、MBOも主要な5つのメリットについて詳しく解説します。
1.従業員の自主性と責任感の向上
MBOでは、従業員が自身の目標設定に関与します。これにより、
- 目標に対するオーナーシップの醸成
- 自己管理能力の向上
- 本体的な問題解決姿勢の育成
等の効果が期待できます。
従業員が自主的に設定した目標に取り組むことで、仕事に対する責任感や自主的に業務を遂行する姿勢が養われます。
2.組織目標と個人目標の整合性の確保
MBOの重要な特徴の一つは、組織全体の目標と個人の目標を連携させることです。
- 組織の方向性と個人の行動の一致
- 部門間の協力体制の強化
- 全従業員の経営意識の向上
従業員個人が組織目標の達成にどのように貢献できるか明確に理解することで、より効果的な組織運営が可能になります。
3.評価基準の明確化と透明性の向上
MBOでは、具体的で測定可能な目標を設定します。これにより
客観的な評価基準の確立
評価プロセスの透明性向上
公平な評価と報酬制度の実現
従業員は自身の評価基準を明確に理解でき、上司と部下の間で評価に関する共通認識が形成しやすくなります。
4.従業員のモチベーション向上
明確な目標設定と達成度の定期的な確認は、従業員のモチベーション向上に大きく寄与します。
- 達成感の獲得機会の増加
- 自己成長の実感
- 組織への貢献度の認識
目標達成に向けた進捗を定期的に確認することにより、従業員は自分の成長を実感し、より主体的に目標達成に取り組むようになります。
5.自己管理能力の向上
MBOは従業員の自己管理能力の向上にも役立ちます。
- 時間管理スキルの向上
- 優先順位付けの能力強化
- PDCAサイクルの習得
目標達成に向けて自ら計画を立て、評価する過程を踏まえることで、従業員の自己管理能力が向上し、プロフェッショナルとしての成長が促されます。
MBOの戦略と課題
MBOは多くの組織で採用されている目標管理手法ですが、その実践には様々な課題が存在します。ここでは、MBOの主要な5つの課題とその対処法について解説します。
1.目標設定の難しさ
特に定性的な業務において、適切な目標設定は大きな課題となります。
問題点
- 数値化しにくい業務の目標設定
- 部門間や職種間での目標の整合性確保
- 個人の能力と組織目標のバランス
対処法
- SMART基準の活用
- 定性的目標の場合は、具体的な行動目標を設定
- 部門横断的なコミュニケーションを促進し、目標の整合性を確保
2.短期的成果への偏重
MBOは短期的な成果に焦点を当てがちで、長期的な価値創造を軽視する傾向があります。
問題点
- 長期的な戦略や持続可能性の軽視
- イノベーションや挑戦的な取り組みの抑制
- 組織全体の成長よりも個人の成果を優先
対処法
- 短期・中期・長期の目標をバランスよく設定
- プロセス評価の導入
- イノベーションや挑戦を評価する指標の設定
3.評価の主観性と不公平感
目標達成度の評価には、しばしば主観性が入り込み、不公平感を生む原因となります。
問題点
- 評価者のバイアス
- 部門間や評価者間での評価基準のばらつき
- 目標の難易度の際による不公平
対処法
- 評価基準の明確化と標準化
- 複数の評価者による評価
- 定期的な評価者トレーニングの実施
4.管理職の負担増加
MBOの実施には、目標設定、進捗管理、評価など、管理職の負担が大きくなります。
問題点
- 目標設定や評価に費やす時間の増加
- 部下との頻繁なコミュニケーションの必要性
- 評価に関する責任とストレス
対処法
- 効率的な目標管理システムの導入
- 定期的な1on1ミーティングの制度化
- 管理者向けのMBO研修の実施
5.目標の形骸化や建前化
形式的な目標設定や、達成しやすい目標を意図的に設定するなど、MBOの本来の意図が失われる危険性があります。
問題点
- 容易に達成可能な目標設定
- 実態を反映しない目標や数値の操作
- 目標達成のための非効率な行動
対処法
- 目標設定プロセスの透明化
- チャレンジングな目標設定を評価する仕組みの導入
- 定期的な目標の見直しと調整の機会の設定
MBOと他の評価手法の比較
目標管理は企業経営において重要な役割を果たしますが、MBO以外にも様々な手法があります。ここでは、MBOとOKR(Objectives and Key Results)、KPI(Key Performance Indicator)との違いを詳しく解説します。
MBIとOKRの比較
MBOとOKRは共に目標管理の手法ですが、その目的や運用方法に大きな違いがあります。
1.目的の違い
- MBO:主に人事評価のために使用されます。個人の業績を測定し、報酬や昇進の判断材料とします。
- OKR:組織全体の生産性向上を目的としています。野心的な目標設定により、イノベーションや成長を促進します。
2.目標達成度の期待値
- MBO:00%の達成を目指します。これは評価と直結するため、現実的で達成可能な目標設定が一般的です。
- OKR:60‐70%の達成を理想としています。高い目標を設定することで、従業員の潜在能力を引き出すことを狙いとしています。
3.評価期間
- MBO:通常、半年から1年のスパンで設定・評価します。
- OKR:四半期ごとに設定・評価を行います。これにより、急速に変化するビジネス環境に柔軟に対応できます。
4.目標の共有範囲
- MBO:主に上司と部下の間で共有されます。個人の目標はほかの従業員には非公開の場合が多いです。
- OKR:全社的に共有されます。透明性を重視し、組織全体の目標と個人の目標の整合性を高めます。
MBOとKPIの比較
KPIはMBOやOKRとは異なり、それ自体が目標管理手法ではありませんが、目標達成のプロセスを評価する重要な指標として機能します。
1.役割の違い
- MBO:全体的な目標管理を行います。個人や部門の目標設定から評価までの一連のプロセスを管理します。
- KPI:具体的な業務指標を提供します。目標達成に向けた進捗を数値化し、可視化します。
2.使用目的
- MBO:個人や部門の業績評価、人材育成に使用されます。
- KPI:業務プロセスの効率性や有効性を測定し、改善点を特定するために使用されます。
3.設定の粒度
- MBO:比較的大きな目標を設定します。例「顧客満足度を向上させる」
- KPI:より具体的で測定可能な指標を設定します。例「顧客満足度調査スコアを10%向上させる」
4.MBOとKPIの関係性
KPIはMBOを補完する役割を果たします。MBOで設定された大きな目標を達成するために、具体的なKPIを設定し、進捗を管理します。例えば、MBOで「営業力の強化」という目標を設定した場合、関連するKPIとして「新規顧客獲得数」「既存顧客の契約更新率」などを設定し、目標達成に向けた進捗を細かく管理することができます。
MBOの効果的な実践のポイント
MBOは、適切に実践することで組織と個人の成長を大きく促進する可能性を秘めています。ここでは、MBOを効果的に実践するための5つの大きなポイントについて詳しく解説します。
1.社員の自主性を尊重した目標設定
社員の自主性を尊重することは、MBOの成功に不可欠です。
なぜ重要か
- モチベーションの向上につながります。
- オーナーシップが醸成されます。
- 個人の能力や状況に応じた目標設定が可能になります。
実践のポイント
- 目標設定プロセスへの社員の積極的な参加を促しましょう。
- 上司は指導的な立場ではなく、サポート役に徹しましょう。
- 社員の提案を尊重し、建設的なフィードバックを提供しましょう。
2.具体的で測定可能な目標設定
目標は具体的で測定可能であることが重要です。
なぜ重要か
- 進捗の可視化が可能になります。
- 客観的な評価が実現します。
- 達成感が獲得できます。
実践のポイント
- SMART基準を活用しましょう。
- 数値目標と定性的目標のバランスを取りましょう。
- 目標達成のための具体的な行動指標を設定しましょう。
3.定期的なコミュニケーションと進捗確認
継続的なコミュニケーションと進捗確認は、目標達成の鍵となります。
なぜ重要か
早期の問題発見と対応が可能になります。
モチベーションを維持できるようになります。
目標を柔軟に調整できるようになります。
実践のポイント
定期的な1on1ミーティングを実施しましょう。(月1回程度)
進捗状況の可視化ツールを活用しましょう。(ダッシュボードなど)
オープンなフィードバック文化を醸成しましょう。
4.公正で透明性の高い評価プロセス
評価プロセスの公正性と透明性は、MBOの信頼性を高めます。
なぜ重要か
- 従業員の信頼を獲得できます。
- モチベーションの維持・向上を促します。
- 組織の公正性を担保することができます。
実践のポイント
- 評価基準を明確化し、事前共有しましょう。
- 複数の評価者による多面評価を実施しましょう。
- 評価結果のフィードバック面談を行いましょう。
5.目標達成のための適切なサポートとリソースの提供
目標達成のためのサポートとリソースの提供は、組織の責任です。
なぜ重要か
- 目標達成の実現可能性が向上します。
- 従業員の成長支援につながります。
- 組織全体の能力向上につながります。
実践のポイント
- 必要なトレーニングや研修を提供しましょう。
- 目標達成に必要な予算や人員の割り当てを行いましょう。
- メンターシップやコーチングプログラムを導入してみましょう。
まとめ
MBOは半世紀以上にわたって多くの企業で採用されてきた目標管理手法ですが、現代の経営環境に適応するために進化を続けています。効果的なMBOの実践には、組織の特性や文化をまた、OKRやKPIなど他の手法と取り組むことで、より効果的な目標管理が可能になるでしょう。
MBOは単純評価ツールではなく、組織と個人の成長を促進する経営哲学であることを冷静に、その本質的な価値を活かすことが重要です。正しく実施されれば、MBOは組織の生産性進歩と従業員の成長に大きく貢献する強力なツールになります。